【顧客の過大要求】 カスタマーハラスメント対策を、職場の皆さんでしっかりと話し合いましょう。

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 新しい年度が始まり、新しい職場で新生活をスタートされた方もおられると思います。

 慣れない職場での仕事は、精神的にストレスを抱えやすいもので、慣れるまでが大変です。

 ですが、お客様と直接接する立場の業務で、お客様から過大な要求や罵詈雑言などがあった場合、職場の雰囲気は悪くなり、対応したスタッフが心身共に大きな負担が発生します。

 職場では、法律で安全配慮義務が課せられているため、スタッフの心身の健康に配慮する法的義務があります。

契約とは

 例えば、お店(事業者側)に、お客様(消費者側)に商品やサービスの提供を求めた場合、お店が適切な対応をした場合に、契約の合意が締結します。
 契約が締結されているので、お店は商品やサービスをお客様に提供する義務が発生します。お客様はお店へ契約で定められた金額を支払う義務が発生します。

 ここで、両者の理解レベルが食い違うとトラブルが発生します。ですのでお店のスタッフがなんでも知っていると思い込むことも注意が必要です。
 そして、消費者側は必要としている商品やサービスについてある程度の下調べなどの理解が必要です。

 このようにして、お互いに配慮して、トラブルを回避して無駄な時間と手間をかけないようにするかが、令和の時代に求められている取引現場の実態です。

カスタマーハラスメントが発生するメカニズム

 それでも、お互いの理解に隔たりがあり、トラブルになることはゼロにはできません。

 慢性的な労働人口の不足で、さまざまな要望に対処できない状態のまま、お客様と接する現場に立ち対応することも少なくありません。

 また、多くの方が現状維持や保守的な考え方が強いため、新しい情勢に着いていけなく、現場責任者であっても適切な対応ができなく解決できないことが珍しくないことがあるのが現状です。

 職場の風通しが悪いと、組織全体で現状の課題を認識することに目を背け、「異動で変わるから適当にすればいいだろう」と、その現場の専門知識を積極的に吸収しない無責任なスタッフも少なくありません。

 一方で、消費者側には、消費者契約法で事業者側の商品やサービスの説明を理解する努力義務が課せられています。

 ですが、お互い人間ですから、ほんの些細な事が重なり、トラブルに発展します。

 先程に述べたように、契約関係にありますから、消費者側からの契約内容の範囲を超えた、過大な要求は社会通念上好ましくありません。

 店や電話で過大な要求があると、事業者側のスタッフも対応する事ができなく、時には精神的に傷害を負うことになります。
 また、現場に居合わせた第三者の方は、不愉快な気持ちになり、誰もが少なからず精神的なショックを受けることになります。

 そうなると、本来の目的から逸脱した一方的な話の繰り返しなど話が進まず、また罵詈雑言を浴びせかけるようになり、専門用語では「対応困難者」となります。

 そのような状態を発生させないためには、今までと異なった根本的な事業者側の取り組みが必要です。

厚生労働省の「カスタマーハラスメント」の見解

 企業や業界により、顧客・取引先(以下「顧客等」)への対応方法·基準が異なることが想定され、明確に定義付けられませんが、企業の現場では以下のようなものがカスタマーハラスメントであると考えられます。(本来、顧客等からのクレーム・苦情は商品・サービスや接客態度・システム等に対して不平・不満を訴えるもので、それ自体が問顆とはいえず、業務改善や新たな商吊・サービス開発繋にがるものでもある点には留意が必要です。)

顧客等からのクレーム・言動のうち当該クレーム言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態度が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

  • 「顧客等」には、実際に商品・サービスを利用した者だけでなく、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含みます。
  • 「当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして…社会通念上不相当なもの」とは、顧客等の要求の内容の妥当性の有無・程度を考慮した上で、当該クレーム・言動の手段・態様が「社会通念上不相当」である かどうかを判断すべきという趣旨です。
  • 顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合には、その実現のための手段·態様がどのようなものであっても、社会通念上不相当とされる可能性が高くなると考えられます。他方、顧客等の要求の内容に妥当性がある場合であっても、その実現のための手段・態様の悪質性が高い場合は、社会通念上不相当とされることがあると考えられます。
  • 「労働者の就業環境が害される」とは、労働者が、人格や尊厳を侵害する言動により身体的・精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」や、「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの」の例としては、以下のようなものが想定されます。

「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例

  • 企業の提供する商吊·サービスに瑕疵·過失が認められない場合。
  • 要求の内容が、企業の提供する商品·サービスの内容とは関係がない場合。

「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例

要求内容の妥当性にかかわらす不相当とされる可能性が高いもの

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害)
  • 精神的な攻撃(脅追、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
  • 士下座の要求
  • 継続的(繰り返し)、執拗(しつこい)な言動
  • 拘束的(不退去、居座リ、監禁)な行動
  • 性的な言動等

要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの

  • 商品交換の要求
  • 金銭補償の要求

 なお、殴る・蹴るといった暴力行為は、直ちにカスタマーハラスメントに該当すると判断できることはもとより、犯罪に該当しうるものです。

 内容を一つひとつ見ると、昭和の時代にあった反社会的勢力の立場を利用した手段である「総会屋」の現代版のように見えます。

 また、カスタマーハラスメントとして取り扱うかどうかに関わらず、顧客等からの行為で従業員の就業環境が不快なものとなり、就業に支障が生じるようであれば、企業として従業員からの相談に応じる、複数名で対応する等の措置が必要となります。

基本的なカスタマーハラスメント対策

 企業がカスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みを構築するため、カスタマーハラスメントを想定した事前の準備、実際に起こった際の対応として、以下の取組を実施するとよいでしょう。

カスタマーハラスメントを想定した事前の準備

事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発

  • 組織のトップが、カスタマーハラスメント対策への取組の基本方針・基本姿勢を明確。に示す
  • カスタマーハラスメントから、組織として従業員を守るという基本方針・基本姿勢、従業員の対応の在り方を従業員に周知・啓発し、教育する。

従業員(被害者)のための相談対応体制の整備

  • カスタマーハラスメントを受けた従業員が相談できるよう相談対応者を決めておく、または相談窓口を設置し、従業員に広く周知する。
  • 相談対応者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。

対応方法、手順の策定

  • カスタマーハラスメント行為への対応体制、方法等をあらかじめ決めておく。

社内対応ルールの従業員等への教育・研修

  • 顧客等からの迷惑行為、悪質なクレームヘの社内における具体的な対応について、従業員を教育する。

 企業においては、カスタマーハラスメント対策を進めることで、前向きな効果が期待でき、カスタマーハラスメント対策に取り組む意義は大きいと考えられます。

 特に株式公開企業は、企業統治や対応などの企業価値が総合評価されますので、プライム、スタンダード、グロースなどの上場市場の格付けにも大きな影響を及ぼします。経営者は十分に気をつける必要があります。

カスタマーハラスメント対策に取り組むことによるメリット

 カスタマーハラスメント対策に取り組む企業へのヒアリングにおいては、対策に積極的に取り組むことによって、複数のメリットが確認されています。

 具体的には、業務において経験が蓄積されることで迷惑行為への対応がスムーズになったといったものや、迷惑行為をする顧客等が来なくなった、従業員が明るくなったといったものが見られます。

 その他、従業員を守るということを行動で示す大事さを会社組織として再認識できる、人材の確保が難しい中、カスタマーハラスメント対応等により職場環境をよくすることで離職者を減らすことにつながるといった意見も確認できています。


まとめ

 当たり前ですが、事業者側のスタッフが十分なノウハウがない状態で現場に入ると、トラブルの発生確率はかなり上がります。そうならないためには職場でのしっかりした連携が必要です。

 また、消費者側は契約前に理解をしてから契約をするなど、努力義務を積極的にしましょう。

 ストレスが多い現代社会です。一人ひとりがトラブルを回避するために、周囲に配慮してから行動しましょう。

参考リンク

顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)について

⚫︎厚生労働省 カスタマーハラスメント対策啓発ポスター

  1. https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000908760.pdf
  2. https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/poster_casuhara_B2_1.pdf
  3. https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/poster_casuhara_B2_2.pdf
  4. https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/poster_casuhara_B2_3.pdf
  5. https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/poster_casuhara_B2_4.pdf
  • 作成:令和4年4月15日
  • 文:能登健
  • 出典元:厚生労働省
  • 画像:いらすとや、ぱくたそ
能登 健
  • 能登 健
  • オフィスまちかど 代表
    大阪で活躍する消費者問題と、デジタル分野に詳しいファイナンシャルプランナー
     
    主にスマホ乗換相談事業者として、消費者に寄り添った対応で、利用プランと支払い額の最適化を実施し、余分な支払いを削減している。
     
    化学プラント設備メーカー、産業用エンジンメーカーの商品開発(防災用発電設備)のプロジェクトリーダー・マネージャーなどを経て、現在に至る。
    課題を解決するために、問題を深掘りし、組織を横断して、さまざまな問題に対応し、解決へ導くことをライフワークとしている。
     
    ファイナンシャルプランナー(国家資格:FP技能士)、情報処理技術者試験 初級システムアドミニストレーター(国家試験)、相続診断士(相続診断協会)、お客様対応専門員(消費者庁後援)、色彩検定2級(文部科学省後援)
    デジタル推進委員(デジタル庁)、食品ロス削減推進サポーター(消費者庁)